子どもと保育が消えてゆく ~「子ども・子育て新システム」と保育破壊


現在会期中の第180回通常国会で、子育て新システムについて一連の法案が提出されている。

第180回 通常国会:http://www.cao.go.jp/houan/180/index.html

先日、名古屋市で弁護士をされている川口創先生(名古屋第一法律事務所所属)から、一冊の本が送られてきました。

子どもと保育が消えてゆく ~「子ども・子育て新システム」と保育破壊


「幼稚園と保育園が分かれていて非効率な状態を効率的に」「待機児童の問題を解消できる」なんてことで一時期メディアなんかにも取り上げられていたけれど、今は消費税の論議に紛れ込まされて見えなくなっていますね。

この「子ども・子育て新システム」そんないい話ではないようです。しかも、議論がまとめられての法案提出でもない。そこら辺の経過は、このサイトをみると分かりやすいと思います。

子ども・子育て新システム検討会議ウォッチング:http://kosodateouendan.sblo.jp/

保育はとても重要な営みです。子どもの基礎の基礎をつくる、本当に大切な営み。もう、国会に法案が提出されてしまっていますが、これによっていったいどうなるのか、知っておく必要があると思います。

読んでほしいと思う一冊です。




(一部抜粋)
この国では、「市場原理を入れると質が確保される」ということが、あらゆるば面でずうっと言われてきました。仮に保育の場面で「市場原理」が原則となれば、英語教育とか、体育教室など、さまざまな「オプション」を入れて、他の保育園と選別化を図ろうという保育園が出てくることは予想できます。こういった「オプション」は、親や第三者にも「やっていますよ」とアピールしやすく、また親から高い保育料を取りやすいでしょう。そして、保育を市場化することによって、こういった「オプション」をつけることが「高い質」だという風潮が、さらに強まる危険があると思います。しかし、娘の誕生会を通して、「保育の質」というのは、英語教育とか、そういったところにあるのではなく、保育の基本に忠実に、一人ひとりにしっかり目を書け、大事にしていくところにあると思いました。しかも、子どもは一日で「育つ」わけでなく、時間をかけて育つのですから、その育ちを年単位で長期的に見てくれることが大事です。
新システムが通れば、至上主義が原則となります。そこでは「コスト意識」が最優先とされ、一人ひとりに十分な手をかける保育はできません。また、キホンに忠実な保育をしていては、「高コスト」になります。人件費削減によって、保育士の入れ替わりも激しくなるでしょう。子どもを長期的に見てくれる保育士がいないことは、親にとっても子どもにとっても安心できません。子どもは信頼できる保育士をつくることができず、不安定になってしまいかねません。「市場原理」では、今の保育の質が逆に低下していくことにならざるをえません。
子どもたちは、いろいろな面をもっています。娘の通う保育円は、子どもたちのありのままをまるごと受けとめて、長い目で子どもの「育ち」によりそってくれています。何か問題行動があった場合には、一方的にしかりつけるのではなく、ときにはぎゅっと抱きしめて、時間をかけてその子どもの気持ちに寄り添ってあげることも大事だということを、ぼくは保育園から学びました。そういった保育を実践するには、時間もかかりますし、保育士と子どもとの間に時間をかけた信頼関係が必要です。しかし、こういった保育はきわめて非効率ですから、「市場原理」のなかでは「高コスト」ということになってしまします。新システムによって、娘の保育園などは「非効率な園」として、つぶれてしまいかねません。
現行制度だからこそできているすばらしい保育があります。この保育を壊すのではなく、より豊かにしていきたい。娘の保育園を通じて、心からそう思います。

そもそも「経済成長戦略」から生まれてきた新システムの議論が、子どもの視点に立って行われないのは当然です。こんな土俵での議論をしていても良いものは生まれてきません。新システムが待機児童解消に繋がらないこと、待機児童解消のための施策が十分ありうることはすでに述べました。多くの主要な点について、ワーキングチームの議論が二転三転しているにもかかわらず、法案を何としても通そうというやり方は、単に「拙速」というだけではありません。私たちの保育制度を強奪しようとしていることを、きびしく批判せざるを得ません。(中略)
子どもと親の共育ちの場としての保育園の機能や、地域のなかで保育園の機能を、どう活かし発展させていくかということこそ、求められる議論の柱なのではないでしょうか。そのために、子どもの生存や成長・発達する権利をしっかり支えるという点に軸足をしっかりおいて、親、保育園、地域、時事タイヤ国が、それぞれのもつ社会的資源を出し合って、どうすればよりよい保育を創っていくことができるか。そんな議論にこのブックレットが役に立てばうれしいと思います。
子どもと保育が消えてゆく ~「子ども・子育て新システム」と保育破壊より








Profile

北星学園余市高等学校で教員をしています。
Instagram