Archive for 4月 2010

【将来は大人になると思っていた】
「何でも構わないの、何か限定しないで自由自在に考えることが大事」


Photo by h.koppdelaney

池田君 私は今、高校3年生なんですが、先生が高校3年生でいらっしゃった頃は、自分の将来に対して何をお考えだったんでしょうか。


團藤 どういうこと?


池田君 ご自分の将来、どんなものになりたいか、とか。


團藤 将来は大人になると思っていたね(笑)。


一同 (笑)。


團藤 本当だよ。大人にはなる、そこで何かはやるんだから、その中で好きなところを選んでいけばいい、というので初めは何も考えなかった。まあ、法学部でしたから、法律関係のことをやろうとは思っていた。だけど大学とか最高裁なんてことは全然考えてもみなかった。何でも構わないの、何か限定しないで自由自在に考えることが大事。


伊東 そういう意味では最近の若い人が、本当に早いうちから「専門」を絞って、これは自分とは関係ない、関係ないと切り捨てるのをよく見て、むしろかわいそうだと思うのですが、それはずいぶん違いますね。


團藤 大学に入って、真っ先に何を勉強したかといえば、さっき言った『洗心洞箚記』ね。でもあれだって革命思想でしょう。大人になって就く職業なんてことは考えもしなかった。


伊東 以前、先生に伺って、へえと思ったのは、我妻先生で民法のリポートをお書きになったのですよね? ドイツ語の論文を渡されて、一夏かけてリポートを200ページだか、まとめられたと。團藤先生イコール刑法と我々は考えやすいですが、我妻先生にも非常に将来を嘱望されて、民法も非常に早い時期に取り組まれた。


團藤 我妻先生は民法の大家だから、当時は若かったけどね。夏休みの始まる頃に行って、夏休みはどんな勉強をすればいいでしょうかと伺ったら、この雑誌を読んでみなさいと。新しく到着した『ツァイトシュリフト・フュア・ゾツィアレスレヒト』。ゾツィアレスレヒトはソーシャルローね、社会法。新しい号が到着して、それを君に貸してやるから好きなものを読んでみたらと。それを見たら、ゴルトシュミット(Goldschmidt)の経済法のことが書いてあって、それが面白くなって、経済法のことを一生懸命勉強してみようと思った。ところがその頃は大学も何も大したことなくて、参考書がない。上野図書館にもない。どこに行ってもないので、結局大したことにはならなくて、でもとにかく300ページぐらいのものにまとめて、先生に提出したの。


伊東 300ページでしたか、失礼しました。


團藤 我妻先生も読みもしなかったと思うんですよ、忙しいからね。そんな一学生の書いたそんなリポートを読んでいたりしたら、自分の仕事ができないからね。


伊東 いえいえ、とんでもない。


團藤 だいたいそういうことで、実は経済法から勉強を始めた。だけど、経済法もいいけど、そのうちに経済法には、民法の我妻先生のところに川島さん(川島武宜1909~1992)という方がおられて、それからその後もう1人別な人が来て、それから助手も来栖君(来栖三郎1912~1998)がいたから、結局、刑事法にしようということにした。それだけですよ。


A「何になろうとも思わなかった。テーマを絞らず面白いことは何でも一生懸命やった」


團藤 その頃はね、刑事法は牧野先生(牧野英一 1878~1970)と小野先生(小野清一郎 1891~1986)と、お2人がこう、チャンチャンバラバラで。大変だったんだよ。両方のお弟子ということは考えられないので、とにかく小野先生の方が若いから小野先生の方に行こうと思った。確かに仲が悪いんだね。正月に小野先生のところにお年賀に行って、それから牧野先生のところにも伺おうと思っていたら、小野先生は「あんなところには行かんでもいい」と。それですっかり小野先生に見切りをつけたの。立派な方だけど、いやしくも自分の恩師だろう、学生とは違う。「あんなところに行かんでいい」ということはないだろう、と思って。じゃあ、ぜひ行ってみようと思って小野先生には黙って牧野先生のところに遊びに行ったんです。面白かったよ。












團藤重光・高校生のための「裁判員反骨ゼミナール」より

【好きなことを一生懸命やる】
「僕がああいうことをいったからそうしようというのではだめなんだ」


Photo by dennis and aimee jonez


團藤 そう、好きなことを一生懸命やる。遊んで勉強して、よく学び、よく遊びだね。そんな難しく考えないで。

伊東 法律に興味を持つ、ということが一番大切だし、また一番難しいのかもしれませんね。團藤先生は、岡山から上京されて東大図書館で最初にお読みになったのが大塩平八郎こと大塩中斎の『洗心洞箚記』だったのでしたよね?

團藤 その通り、陽明学ね。

伊東 ですから、入り方がどこかというのは、どこであってもいい、好きなこと、興味を持った入り口からでいいということですね。

團藤 その通りです。

伊東 それをもっと一般化して考えるのが大切そうです。團藤先生が大塩平八郎の次に読まれたのはドイツ語の原書だったわけですよね。

團藤 そうそう、次というか、同時にね。当時は毎日、本当に緊張してね、何というんだろう、意気に燃えていたね。とにかく自分の人生の門出でしょう。大学の門出は人生の門出だからね。だから何でも片っ端から読んだ。僕が一番初めに読んだ原書はイェーリングのローマ法の歴史だね。ローマって、法科に入るとローマ法から始めるでしょう? そうするとイェーリングを抜きにしてはだめなので、イェーリングのローマ法の歴史、『法における目的(Der Zweck im Recht)』そればっかり読んでいた。それと『洗心洞箚記』、さっきの大塩平八郎のね。あれは面白いですよ。


伊東 この頃の大学生は法学部に入ると、すごく咀嚼しやすく作られた教科書を与えられるのが大半で、原書はほとんど読まないし読ませないと思うんです。テキストから入っちゃうので、それの弊害がすごく出ているような気はしています。

團藤 最初は、訳が分からないのが一番いいね。だって初めから分かったようなつもりになっちゃったら伸びないものね。何でもいいから、分からないことにぶつかっていく。ぶつかっていくことが一番大事だ、何でも。だから、法律を始めてみたけど面白くなくて、理科を始めたと言っても全く構わない。理科をやっている間に、また法律に興味を持ったらそれでもいい。

伊東 大学時代、物理学科の2級先輩で茂木健一郎という人が、そんなキャリアを踏んでいます。

團藤 何でもいいから、好きなことをやっていることだね。自分からしないとだめですよ。誰かに言われて、例えば今日、僕がああいうことを言ったからそうしようというのではだめなんだ、自分でそういうつもりになってやらなきゃね。それが一番大事。




【生徒たちに企画を】
自分の「外」の人と繋がること、それは新しい世界が広がるきっかけであること。

年度末ごろの話ですが。2010年3月13日、僕と生徒一人とパンフレット制作でお世話になっているBREWさんの3人で『第1回写真バトル in 小樽』と称して遊んできました。

その様子は、本校サイト内のブログ「北星余市は今」を参考にしていただきたいと思いますが、今回の企画は写真部の取り組みとは別で、「BREWさん、写真の撮り方教えてください」という、その子のふとしたアプローチから始まった企画でした。

この子はヨット部でも頑張っている子で、最近、父親から一眼レフカメラ(not デジタル)を借りて、写真にも興味を持ち始めたとか。で、BREWさんは「2009年11月27日ヨット部、クルーザーに乗る!」のきっかけを作ってくださった方でもあり、一緒にクルーザーに乗った仲なので、卒業式の撮影に来ていたBREWさんを捕まえて、その子がお願いした。そんなひょんなことから、今回のこの企画が始まったわけです。

なんていうか、そういった一連のやり取りから、身近な大人を捕まえて、自分の世界を広げようとする姿勢とエネルギーの貴重さ、そしてそれを大人が受け止めてあげるその大切さを感じたわけです。些細な企画ではあります。しかし、日常に追われている教師が見落としがちな大切なことなのだと思います。

人とのつながりを作るというのは、難しいようで意外と簡単だったりします。何がしたいかを考えて、それを適当と思われる人に対して、声をかけるだけですから。けれど、口で言うほど簡単なことでもない。色々なことが頭をよぎるわけです。

彼女がBREWさんに「教えてください」と声を発する行為そのものは、簡単なことなんです。そして、そこから新しい世界を作っていくことも意外と簡単にできていく。でも、その一歩を踏み出すことは、本当は難しいことなんだと思うわけです。

しかし、この一歩がとても大切なアプローチで、それをできることが大きな力につながっていくものだと思います。

本校の卒業生でも、また在校中の生徒でも、外の世界に目を向けてめきめきと力をつけていく生徒が大勢います。そういった子の多くは、自分の興味を持った事柄に対して、そういったアプローチをかけていく姿勢があります。彼女がそういうアプローチをしたことを聞いたときは、とても大きな力が彼女に備わっているのだなぁ、、とうれしく思った瞬間でした。

当日は朝10:00に小樽駅に集合して、重要文化財に指定されている「旧日本郵船小樽支店」まで歩いていき、小樽のお土産通りともいえる「栄町通り」を巡って、その後「小樽といえば、硝子でしょう!」ということで「浅原硝子製造所」を訪問させていただいて、旧手宮線に戻って、、、という感じで小樽を堪能しました。

生徒も喜んでくれたと思います。新学期になったら、撮影した写真をプリントアウトして額に入れて掲示板に飾ったり、第2回写真バトルなんかも開催したいなぁ、、、って思っていたりしています。

【地域の助け】
「地域と若者自立支援活動に関する共同公開ゼミ」に参加してきました。

2010年3月14日(日)に開催された「埼玉大学教育学部安藤ゼミ」と「青少年自立支援センタービバハウス」の共催による共同公開ゼミに出席。


(参考:余市テラス http://comiresu-hokkaido.net/blog/3/173.html )


「青少年自立支援センタービバハウス」は、10年前から余市町でニート、ひきこもりと呼ばれる困難を抱える若者の自立支援活動に取り組んでいて、本校の元教員である安達先生が運営されている。若者支援を研究テーマにしている埼玉大学・安藤ゼミの研修を昨年の夏にビバハウスが受け入れ、それがきっかけとなって今回の運びとなったとのこと。


引きこもりと呼ばれる若者は、2005年の時点で150万人以上(NHK福祉ネットワーク調べ)、ニートと呼ばれる若者は、現時点でも60万人以上おり大きな社会問題である。しかも、これらの若者は年々増加と高齢化している現状がある。これらの若者に対する自立支援をどう行っていったらよいのか、これが今回のテーマであった。


具体的な内容としては、これら若者自立支援の取り組みに地域がかかわっていくことへの模索と事例の紹介であった。


ニートや引きこもりを経験している人たちの中には、中学校や高校時代に不登校を経験し、その延長線上にそのような状態となっている人も多いという。そういった現状を踏まえると、我々学校教育が現場において不登校の子どもたちにたいして、どのような営みをしていくべきかを考えさせられる時間だった。また、地域にある学校として、そういった取り組みにいかに協力していくことができるのかも考えさせられる時間だった。


深く考えがまとまっているわけではない。むしろ、今回の話を聞いて、僕自身開眼させられた思いでいるが、今後、そういったことを考えるきっかけにしたいと思う。

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北星学園余市高等学校で教員をしています。
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