【教育講演対話集会】
発達障害と育ちの関係


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今、僕は名古屋にいます。北星余市には全国から生徒がきており、愛知県からもたくさんの生徒が毎年のようにきています。昨日は、タイトルにもある「教育講演対話集会」に講師として参加させていただいたのですが、その前に名古屋駅前にある名鉄百貨店のなかをうろついていたら、「あーーーーー」という声が。


34期生、9年前に卒業した生徒でした。うーーーーん、ご縁ですね。なんてお互いに驚く。別になんの用事があって入ったわけでもない、ただなんとなく入った名鉄百貨店だが、これこそまさに「ご縁」という瞬間を肌で感じる。そういうのってあるんですよね。これ不思議。


彼女は現在27歳。愛知県の定時制の高校で非常勤の先生をしているとのことでした。「今の仕事をして、とても楽しい、充実した生活を送れている」と笑顔で語ってくれました。そして、小学校の教員を目指して、今は通信制の大学で勉強中とか。とても生き生きした顔に、教師にしか味わうことのできない喜びをかみしめる。


しかし、全国に生徒がいるということは、悪いことはできないですね。


「教育講演対話集会」。こちらは東京にあるNPO法人不登校情報センターと名古屋にある木村登校拒否相談室の主催で開催。講師は私のほかに黄柳野高校(愛知県)の校長・辻田先生とどんぐり向方学園理事長・天龍興譲高校校長である中野先生がおられて、それぞれのテーマで30分ほどお話をさせていただく。そのあと会場の人たちからの声も交えながら語り合うという趣旨の集会でした。


どんぐり向方学園の中野先生は名古屋経済大学の教授をされており、大脳生理学者でいらっしゃる。その先生がおっしゃるには人間は前頭葉を鍛えることがとても大切で、この働きが鈍くなるとキレやすくなったり、物事に固執しやすくなる、柔軟性がなくなる、自分で考える行動ができなくなるという。この前頭葉を鍛えるためには、「計画・実行・反省」、PDSを実行することが大切で、こちらの学校ではそれの手段として体験学習を中心に据えて、教育されている。


ふーむ、、、と考えながら拝聴していると、シナプスのお話が。人間の脳細胞は1千億個とも1兆個とも言われているようだが、この脳細胞の数よりも大切なのは、その脳細胞と脳細胞をつなぐシナプスであるという。


ここ2~3年、本校の面接試験において「発達障害と診断された」というカミングアウトをされる方が非常に増えている。「【特別に育てられた子供の行く先は?】特殊支援教育への懸念」でも書かせていただいているのだが、私は個人的に「本当にすべてのそれは障害なのですかね」という疑問をもっている。要は、なんでもかんでも「発達障害だ」で片付けるのは危険だという意味である。発達障害の存在や、実際にそれを抱えている方がいること、そういう方々への特別な支援を否定するものではない。


中野先生のどんぐり向方学園でも、発達障害という診断を受けてこられる方がいらっしゃるようなのだが、この体験学習を通じて、その症状がなくなっていく子供がほとんどだという。中村先生は、前頭葉の育つべき部分が育っていないために、発達障害と同じ症状がでている、そして体験学習を通じ脳の発達すべき部分が育つことでそれが改善されていく、具体的にはシナプスの活動が活発になった結果である、という趣旨のことをおっしゃる。


育ちの問題に目を向けることも重要なのである。発達障害というのは先天性のもの、つまり「生まれつき」のものであるという定義がなされているので、一般的には育ちの問題、つまり後天性のものはそれに含まれないという考え方である。これだけ多くの子供が生まれつきそういう障害を抱えているという診断、そういう子供が増えているという考え方に私は納得がいかないのである。


本校にくるそういった生徒たちも、入学当初はあたかも発達障害かのようなそぶりを見せる。しかし、その大部分は学校生活を送り、時間がたつにつれてそういったものがなくなっていく。もちろん、そうでない子もいる。


「育ちの問題」という言い方は、「親の育て方が悪い」というのとはイコールではない。そういう要素もあるかもしれないけれど、学校教育の関わり方だって、育つ環境だって、社会一般の流れだって教育には深く影響を及ぼす。親の育て方だって、それらの影響を強く受ける。一分一秒、その人間の目の前に現れる出来事が人間の育ちには影響する。微細な話だが、昨日、私が百貨店で偶然にも卒業生に出会い、ご縁を再認識させてもらいながら、素敵な気分でそのあとの人と接することが出来た事が、またその日に合った人との出来事の上にも影響してくる。その出来事がまた明日の私を作っている。そういう事の積み重ねが時間的感覚を持って熟成されていくのが育ちであり、教育だからである。


「こういう行動をする子供はADHDという発達障害です」「こういう症状を表わす子供はアスペルガーです」というまるで占い本かのような書籍が本屋さんにずらーっとならんでいて、「この行動の原因は、先天的な脳の発達遅延、つまり発達障害である」という一言で片付ける本が巷ではあふれている。そろそろそうじゃない書籍というものに出会いたい気がする。

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北星学園余市高等学校で教員をしています。
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