BRUTUS 2011 1/1・15合併号 正義と個人 いとうせいこう×萱野稔人



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萱野:もう一つ大きなポイントとして、これはサンデルの政治哲学史上での新しさでもあったわけですが、彼は「人間にとって社会的承認がすごく大事なんだ」ということを言っています。この本の最後の章でも「結婚がどこまで社会的に認められるべきか」という話をしていますよね。人間の人生もまた有限なわけですが、人は誰でも、何らかの形で自分の人生に価値があったということを確認したい。自分が死んでゼロになってしまうなら、自分がなぜ生まれてきたのか?その意義を考えるわけですよね。しかしその時に、人間は社会的な形でしか語ることができないんですよ。「人の役に立っている」とか「ある分野で活躍している」とか、他者との関係の中でしか自分の存在意義を確認することができない。それが「承認」ということです。その承認という者が必要な限り、人はある社会やky行動隊に帰属することを捨てられない。それが正義の問題に深く関わっている、とサンデルは言っているわけです。
いとう:少し前に「自分探し」という言葉が流行したけど、自分で自分を探すなんてのは愚かですよね。自分の中を掘っても掘っても絶対自分はわからないし、まして社会的承認は永遠に得られない。それが今やっと、「自分以外の他者が必要なんだ」と多くの人が気づいたというか。20年もの間、他者と関わらなくても生きていけると勝手に思い込んでいたんだね。

(BRUTUS 2011 1/1・15合併号 正義と個人 有限なものはどう分配すべきか? いとうせいこう×萱野稔人 17p-18p)



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北星学園余市高等学校で教員をしています。
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